秋の深まりとともに、市川町の道端や田んぼの畦道を鮮やかに彩る赤いヒガンバナ。そんな中、真っ赤な絨毯の中にぽつりと咲く、気品あふれる「白いヒガンバナ」を偶然発見。
※撮影場所:天然かさがた温泉せせらぎの湯(兵庫県神崎郡市川町上牛尾)2026/9/22
赤と白が並んで咲く姿はどこかおめでたく、見かけただけでも良いことがありそうな秋の吉兆を感じさせます。
「赤いヒガンバナが突然変異で白くなったのかな?」「珍しいけれど、どうしてここに咲いているんだろう?」
そんな疑問について、植物遺伝学の専門家による知見をもとに、白いヒガンバナの正体や誕生の謎を紐解きます。
白いヒガンバナの正体は「赤と黄色のハーフ」
白いヒガンバナの正式な名称はシロバナマンジュシャゲ(学名:Lycoris x albiflora)といいます。
「赤いヒガンバナの色違い」と思われがちですが、植物学者の牧野富太郎博士が提唱した通り、実は「赤いヒガンバナの祖先」と「黄色のショウキズイセン」が自然に掛け合わさって生まれた交雑種です。
生物学的な分類としても、一般的な赤いヒガンバナとは「別の花(親戚関係)」にあたります。
| コヒガンバナ | 赤 / 2倍体・タネができる |
| ショウキズイセン | 黄色 / 2倍体 |
| シロバナマンジュシャゲ | 白色 / タネはできない |
白とは言っても、ほんのりクリーム色や淡いピンク色がかった優しい色合いをしており、反り返った優美な花弁が特徴です。
突然変異ではない?遺伝学が解き明かす「白さ」の謎
「赤から直接、突然変異で白くなったのでは?」と考えがちですが、遺伝学の観点からはその可能性は極めて低いとされています。
1. 赤いヒガンバナは「タネを作れない(3倍体)」
私たちが普段目にする赤いヒガンバナ(L. radiata var. radiata)は、染色体を3セット持つ「3倍体」という体質をしています。種無しスイカと同じでタネを作ることができません(不稔性)。
風や昆虫によって他の花と自然交配し、新しいタネから白い花が生えてくることは原理的にありません。
2. 赤から突然変異しても「見た目は赤いまま」
仮に3倍体の赤いヒガンバナの遺伝子に突然変異が起き、「花を白くする遺伝子」が1つできたとしても、残り2つの遺伝子は正常な「赤」のままです。そのため、見た目が白く変わることはありません。
また、タネを作る減数分裂の過程もないため、白い遺伝子同士が揃って白い花が咲く(ホモ接合になる)ことも起こり得ません。
3. 大昔の「タネが作れた祖先同士」の奇跡の出会い
では、なぜ白いヒガンバナが存在するのでしょうか?
それは大昔、まだタネを作ることができた2倍体の祖先「コヒガンバナ」と、同じく2倍体の「ショウキズイセン」が出会い、自然交雑したからと考えられています。
タネを作れる体質同士だったからこそ、奇跡的に白いヒガンバナが誕生しました。
なお、こうして生まれたシロバナマンジュシャゲ自体は特殊な染色体構造を持つため、現在はタネを作ることができません。今ある白いヒガンバナは、すべて球根(無性繁殖)によって命を繋いできた株なのです。
なぜ市川町で「赤と白」が一緒に咲いているのか?
今回市川町で発見されたように、赤いヒガンバナの中に白が混ざって咲き、めでたい「紅白の共演」が見られる理由には、主に2つの可能性が考えられています。
人が一緒に球根を植えた
かつてシロバナマンジュシャゲの球根がヒガンバナと一緒に植えられ、時期をずらして芽を出した可能性が最も高いとされています。(※ヒガンバナには他者の生育を抑える作用「アレロパシー」があるため、白い方の成長が一時的に抑えられていた影響も考えられます)
ショウキズイセンのタネが鳥によって運ばれた
遠方から鳥の糞などに混ざってショウキズイセンのタネが運ばれ、生息していたコヒガンバナと交雑した可能性です。
まとめ
市川町で偶然見つかった白いヒガンバナ。それは単なる突然変異ではなく、太古の自然交雑と球根の生命力によって脈々と受け継がれてきた「歴史」でした。
真っ赤なヒガンバナの中にひっそりと咲く白い花を見つけたら、ぜひそのめでたい紅白の共演を楽しみつつ、遠い昔の自然のロマンに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
【参考文献・出典】
本記事の遺伝学・生態に関する記述は、日本植物生理学会(JSPP)資料に基づいています。
- 回答者:鈴木 孝仁 氏(奈良女子大学 / 遺伝学)
- JSPPサイエンスアドバイザー:柴岡 弘郎 氏(回答日:2015年9月29日)
- 参照研究:稲荷山資生(1951)、栗田子郎(1976)によるヒガンバナ属の核型および系統関係に関する研究分析






































































