厚生労働省、各都道府県へ「病床機能再編支援補助金」内示額を公表
厚生労働省は2月9日、「病床機能再編支援補助金」の各都道府県への内示額を公表。
緊急事態宣言の渦中にあって医療逼迫、病床不足などの声があがる中、「新型コロナ」関連の病床を増やすための支援?なんて想像していたのですが、「病床機能再編支援」とは「病床削減」「病院統合」 に伴う財政支援のこと。
病床機能再編支援とは
○中長期的な人口減少・高齢化の進行を見据えつつ、今般の新型コロナウイルス感染症への対応により顕在化した地域医療の課題への対応を含め、地域の実情に応じた質の高い効率的な医療提供体制を構築する必要がある。
〇こうした中、地域医療構想の実現を図る観点から、地域医療構想調整会議等の合意を踏まえて行う自主的な病床削減や病院の統合による病床廃止に取り組む際の財政支援を実施する。
○ 令和3年度以降においては、地域医療構想調整会議における議論の進捗等も踏まえつつ、消費税財源による 「医療・介護の充実」とするための法改正を行い、これに基づき病床機能の再編支援を実施する。(厚生労働省より)
病床機能再編支援補助金:「病床削減」 に伴う財政支援
病床を削減した病院等(統合により廃止する場合も含む)に対し、削減病床1床あたり、病床稼働率に応じた額を交付。
※病床削減後の許可病床数が、平成30年度病床機能報告における稼働病床数の合計の90%以下となること
※許可病床から休床等を除いた稼働している病棟の病床の10%以上を削減する場合に対象
削減した場合の1床あたり単価
病床稼働率 | 削減した場合の1床あたり単価 |
50%未満 | 114.0万円 |
50%以上60%未満 | 136.8万円 |
60%以上70%未満 | 159.6万円 |
70%以上80%未満 | 182.4万円 |
80%以上90%未満 | 205.2万円 |
90%以上 | 228.0万円 |
病床機能再編支援補助金:「病院統合」 に伴う財政支援
統合(廃止病院あり)を伴う病床削減を行う場合のコストに充当するため、関係病院全体で廃止病床1床あたり、病床稼働率に応じた額を関係病院全体へ交付(配分は関係病院で調整)
※重点支援区域のプロジェクトについては一層手厚く支援
※病床数を関係病院の総病床数の10%以上削減する場合に対象
令和2年度病床機能再編支援補助金の内示額一覧
内示額の高い順。(2021/02/09公表)
都道府県 | 内示額(単位:百万円) |
熊本県 | 486 |
福岡県 | 470 |
広島県 | 430 |
山形県 | 394 |
秋田県 | 343 |
鹿児島県 | 304 |
長野県 | 303 |
北海道 | 293 |
山口県 | 266 |
宮城県 | 259 |
岡山県 | 243 |
大阪府 | 229 |
京都府 | 228 |
高知県 | 190 |
静岡県 | 187 |
岩手県 | 147 |
和歌山県 | 146 |
兵庫県 | 144 |
三重県 | 130 |
福井県 | 125 |
愛媛県 | 101 |
島根県 | 81 |
青森県 | 75 |
岐阜県 | 74 |
佐賀県 | 72 |
石川県 | 70 |
大分県 | 70 |
愛知県 | 61 |
福島県 | 48 |
長崎県 | 41 |
徳島県 | 27 |
茨城県 | 19 |
千葉県 | 3 |
合計 | 6060 |
こうしてみると東京都や神奈川県、香川県、沖縄県等は含まれておらず、病床は削減されない模様。多い県は病床削減が多いことを表しています。
「病床削減」「病院統合」が必要な理由を考える
「病床削減」「病院統合」が必要なため、支援が必要となることから支援補助金出るわけですが、なぜ必要なのか。度々でてくる「地域医療構想」という言葉。
- 地域医療構想の実現のため、病院又は診療所であって療養病床又は一般病床を有するものが、病床数の適正化に必要な病床数の削減を行う場合、削減病床に応じた給付金を支給する。(病床削減)
- 地域医療構想の実現のため、病院又は診療所であって療養病床又は一般病床を有するものが、病床数、病床機能、医療提供体制の適正化のために統合する場合、統合計画に参加する病院等に給付金を支給する。(病院統合)
- 地域医療構想の実現のため、必要な病院の統廃合において、廃止病院の未返済の債務を統合後に存続する病院が新たに融資を受けて返済する場合、当該融資に係る利子の全部又は一部に相当する額に給付金を支給する。
「地域医療構想」とはなんぞや
令和元年6月7日付けで公開されている「地域医療構想について」という「厚生労働省 医政局 地域医療計画課」作成の資料に行き当りました。
- 「地域医療構想」は、2025年に向け、病床の機能分化・連携を進めるために、医療機能ごとに2025年の 医療需要と病床の必要量を推計し、定めるもの。
- 都道府県が「地域医療構想」の策定を開始するに当たり、厚生労働省で推計方法を含む「ガイドライン」を作成。平成27年3月に発出。
- 「医療介護総合確保推進法」により、平成27年4月より、都道府県が「地域医療構想」を策定。平成28年度中に全都道府県で策定済み。
現在「医療資源の分散・偏在」しており、類似の医療機能を持つ医療機関の林立により医療資源の活用が非効率、また医師の少ない地域での医療提供量の不足・医師の過剰な負担があるとし、どこにいても必要な医療を最適な形で医師・医療従事者の働き方改革で、より質が高く安全で効率的な医療を行うために病院統合が必要としています。
なぜ地域医療構想が必要なのか?
医療における2025年問題
- 2025年とは団塊の世代が75才になる年 – 医療・介護需要の最大化
- 高齢者人口の増加には大きな地域差 – 地域によっては高齢者人口の減少が既に開始
- 医療の機能に見合った資源の効果的かつ効率的な配置を促し、急性期から回復期、慢性期まで患者が状態に見合った病床で、状態にふさわしい、より良質な医療サービスを受けられる体制を作ることが必要
病床に関しては特に重要なのか下線付きで説明あり。
病床を減らす理由は?
厚生労働省は「病床数の適正化に必要な病床数の削減を行う場合」に支援する、としているので裏を返せば「適正ではない(多い!)」と言っていることになります。
「病院統合」については高齢化に伴い、地域医療を効率化するという目的について明確なのですが「病床削減」の根拠はどこにあるのか。
2020年11月26日に各都道府県知事宛に出された「令和2年度地域医療構想を推進するための病床削減支援給付金の実施について」では支援給付金の目的についての記載はありますが、やはり出てくるのは、「地域医療構想の実現のため病床数の適正化に必要な病床数の削減」という言葉。
この表を見る限りでは2050年には人口も減り、治すことや救うことが必要となる層(病床利用者)が減ることが分かります。
単純に高齢化社会になるとよりベッドが必要になりそうなところですが介護用と病床はまた別ということでしょう。医療需要と病床の必要量が推計された結果「病床削減」となったのは事実。
概要としては、医療・介護需要の最大化となるであろう2025年を前に、医療資源の最適化を行おう、実績の少ない病院は統合を要請、稼動していない病床は削減、ということのよう。
「地域医療構想について」の資料は合計104ページの長編。なお「病床」というキーワードは全編にわたって294個出てきます。
各病院から出された2025年見込みの必要病床では「地域医療構想」で掲げる病床数には開きがあるとし、さらに減らすよう求めるもので、実際の現場(病院)と推計にこれほどの差がでる理由は疑問ですが
これについて厚生労働省 医政局 地域医療計画課は「具体的対応方針の合意内容が地域医療構想の実現に沿ったものになっていないのではないか。」とし、地域医療構想に掲げる病床数になるよう求めます。
新たな病床は不要?統合、病床削除を推進
厚生労働省
- 平成30年度以降、関連項目の診療実績がない病棟は、高度急性期・急性期の選択は原則不可(→実績なしで削除)
- 地域で既に過剰になっている医療機能に転換しようとする医療機関に対して、転換の中止の命令(公的医療機関等)及び要請・勧告(民間医療機関)
- 稼働していない病床の削減を命令(公的医療機関等)及び要請・勧告(知事)
- 高度急性期・急性期病床の削減は数%に留まり、「急性期」からの転換が進んでいない。
- 「代替可能性がある」または「診療実績が少ない」と位置付けられた公立・公的医療機関等に対して、構想区域の医療機関の診療実績や将来の医療需要の動向等を踏まえつつ、医師の働き方改革の方向性も加味して、当該医療機能の他の医療機関への統合や他の病院との再編統合について、合意を得るように要請
都道府県の声
- 病床削減について、地域の医療提供体制に大きな影響が生じないよう慎重に議論しているため時間を要している。
- 再編統合に動こうとしていたが、地元住民の反対により再編統合について再検討
- 再編統合後の候補地について、関係自治体間で賛否が割れている
どうなっていくのか
地域医療構想の実現のため、「病床数の適正化(削減)」「病院統合」を進める厚生労働省と、「地元住民の反対」や「地域の医療提供体制に不安」のある都道府県。
コロナ禍で聞く機会の増えた「病床利用率」「病床不足」という言葉ですが地域医療構想はどう進んでいくのか。
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