スパコンによる大規模シミュレーションが描く天体合体の新シナリオ
国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」および最新の「アテルイIII」を用いた大規模シミュレーションにより、宇宙に存在する「連星(二つの天体が互いの周りを回る天体)」が、どのようにして距離を縮め、近づいていくのかという長年の謎が描き出されました。
※トップ画像:©Matsumoto, Hotokezaka, Inayoshi 2026)
法政大学、東京大学、北京大学の研究者から成る共同研究チームによるこの成果は、恒星の誕生プロセスだけでなく、宇宙最大の謎の一つである「巨大ブラックホールの合体」の仕組みを解明する上でも極めて重要な一歩となります。
研究の背景とシミュレーションの概要
宇宙には、太陽のような星が単独ではなく、二つ以上のペア(連星)として生まれるケースが数多く存在します。しかし、これらがどのようにして互いの距離を縮めていくのかは、天文学における長年の課題でした。
従来の課題:天体同士が近づくためには、回転の勢い(角運動量)を小さくする必要があります。星の材料であるガスが影響を与えていると考えられていましたが、これまでの研究では、ガスによってむしろ連星が引き離されてしまうケースもあることが示されていました。
新たなアプローチ:研究チームは、連星の周りに外側からガスが流れ込む際、宇宙空間のガスの流れを大きく左右する「磁場」の効果に着目しました。
計算結果:「アテルイIII」等の計算により、磁場の効果を取り入れると、連星の周囲に磁場によって乱れたガスの流れ(周連星円盤や星周円盤)が生じることが判明しました。
さらに、磁場に沿ってガスが上下方向へ激しく吹き出す「アウトフロー(ジェット)」の様子が詳細に描き出されました。このガスの噴出に伴って回転の勢いが外側へ運び去られ、連星の間隔が少しずつ縮んでいくことが実証されました。
本研究成果がもたらすメリットと科学的影響
今回のシミュレーション成功は、今後の宇宙物理学や天文学の発展において、以下のような多面的なメリットと大きなインパクトをもたらします。
一見異なる二つの天体現象を「共通の物理法則」で解明
本研究で示された「ガスと磁場の働きによる距離の短縮」というメカニズムは、通常の星(双子の恒星)の形成過程だけでなく、太陽の数百万倍以上の質量を持つ「巨大ブラックホール同士のペア」にもそのまま応用することができます。スケールが全く異なる二つの現象を、同じ物理の仕組みで一元的に理解できる可能性を切り開いた点は、学術的に極めて高い価値があります。
巨大ブラックホール合体・重力波天文学への貢献
銀河同士が合体する際、それぞれの中心にある巨大ブラックホールもペアを作ると考えられています。しかし、それらが最終的に合体するためには、まず重力波を放出するほど超至近距離まで接近する必要があります。本研究は、巨大ブラックホールのペアを最後の合体プロセス(重力波放出ステージ)へと導くための「ミッシングリンク(未知の道筋)」を埋める画期的な成果です。
宇宙における「磁場」の役割の再評価
宇宙空間における天体形成において、重力やガスの熱運動だけでなく、「磁場」がいかに決定的な役割を果たしているかが改めて証明されました。今後の天体形成モデルの構築において、磁場を考慮した多次元シミュレーションの重要性がさらに高まるものと考えられます。
今後の展望とまとめ
- 研究チーム:法政大学、東京大学、北京大学
- 使用設備:国立天文台・天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイII」「アテルイIII」
クレジット:Matsumoto, Hotokezaka, Inayoshi 2026
外から流れ込むガスと磁場の効果を精緻に計算することで、天体同士が近づく新しいシナリオを証明した今回の研究。
日本の誇る世界最高峰の天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイIII」の圧倒的な計算力が、宇宙の進化の歴史をまた一つ紐解きました。
この成果を基盤として、今後ブラックホール合体や銀河の衝突といった、宇宙のダイナミックな歴史の解明がさらに加速することが期待されます。


























































