108という数は、ぱっと見たところでは少し地味です。
でも、そっと中身をのぞいてみると、意外とよく考えられていることがわかります。
まずは分けてみましょう。
108は、2²×3³と書けます。
つまり「2が2回」「3が3回」出てくる数です。
この時点で、数字が好きな人なら、少し楽しくなってきます。
2という数は、「分ける」力を持っています。
半分にする、昼と夜に分ける、表と裏に分ける。
身の回りにも、2で分けられているものはたくさんあります。
一方、3という数は、「広げる」数です。
始まり・途中・終わり。
過去・現在・未来。
ものごとを流れとして考えるとき、3はとても使いやすい数です。
108は、この「分ける力」と「広げる力」を、ちょうどよく合わせ持った数だと言えます。
実際、108はとても割りやすい数です。
2、3、4、6、9、12、18、27、36……
驚くほどたくさんの数で、きれいに分けることができます。
「区切る」という役目にかけては、まさに万能選手です。
ここで、除夜の鐘の話に戻ってみましょう。
鐘は、何かを完全に消すためというより、
一年をいったん区切るために鳴っているように思えます。
一年分の出来事や気持ち、反省や後悔を、
一つひとつ音で切り分けていく。
その作業に、割りやすい108という数は、とても向いていました。
さらに面白いのは、人間の感覚との関係です。
108回を正確に数え続けるのは、思った以上に大変です。
30回あたりで気が緩み、
50回で自信がなくなり、
70回を過ぎるころには、「もういいか」と思ってしまいます。
数字としてはきれいに整っているのに、
体で感じる時間は、どこかあいまい。
でも、そのズレこそが心地いいのです。
もし108が、たとえば127のような割れない数だったらどうでしょう。
分けられず、まとめて一気に終わってしまう。
それでは、年の終わりの余韻は生まれにくかったかもしれません。
108は、仕組みはきちんとしているのに、体験すると少しぼんやりしています。
理屈と感覚の、ちょうど真ん中あたりにある数です。
だから除夜の鐘を聞いていると、
いつの間にか回数よりも、
音と音のあいだや、響きの余韻に耳を澄ませるようになります。
人はそこで、数学をそっと手放し、
感覚のままに年を越していくのです。
2²×3³。
少し理屈っぽくて、少しあいまい。
108という数は、日本の大晦日に、不思議なほどよく似合っています。


































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