2021年8月初旬では新型コロナの「デルタ株」と答える方が多いでしょう。
Googleの検索バーに「デルタ」と入力すると「デルタ株」を筆頭にコロナ関係のキーワードがサジェスト(「予測変換」)されることから、関心が高さが伺えます。
2021年8月、第5波として感染者急増中の新型コロナウイルス。2020年より始まった世界的なコロナ禍はいまだ収束の兆しを見せていません。
「デルタ」はギリシア(ギリシャ)文字「Δ」から来ていますが、文字の形から学校の社会などで習う「デルタ地帯(三角州)」でもおなじみ。
ギリシア文字の順番ではアルファ、ベータ、ガンマに次ぐ4番目のアルファベットですが、なぜギリシア文字なのでしょう。
変異株とWHOラベル
2021年5月31日、WHOは、懸念すべき変異株(VOC)及び、注目すべき変異株(VOI)についてPANGO系統に追加する形で、ギリシア文字で表した「言いやすい・覚えやすい」新たな呼称を発表しました。(WHOラベル)。
なぜ「ギリシア文字」なのか
WHOは、分かりやすい名称にすることで新型コロナウイルスの変異株に関する一般の人々の議論を促進するとともに「特定の地名を用いることで差別的になることを避けるため、各国当局やメディアなどには新たな呼称を使うよう奨励」ということからWHOラベル(ギリシア文字名)が用いられるようになりました。
PANGO系統(PANGO Lineage)とは
新型コロナウイルスに関して変異株の呼称として広く用いられている国際的な系統分類命名法。「B.1.1.7」「B.1.617.2」等にあたります。
「VOC」と「VOI」
VOCの株の方が重篤度が増します。(危険)
VOC | 懸念される変異株(Variant of Concern) |
VOI | 注目すべき変異株(Variant of Interest) |
VUM | 監視下にある変異体(Variants Under Monitoring) |
VOC
VOIの定義(下記参照)を満たし、比較評価により、世界的に公衆衛生上重要な程度に以下の変化の1つ以上と関連していることが証明されたSARS-CoV-2の亜種(変異株)。
WHOラベル | パンゴ系統 | 最も早いサンプル | 指定日 |
アルファ | B.1.1.7 | イギリス、 2020年9月 | 2020年12月18日 |
ベータ | B.1.351 | 南アフリカ、 2020年5月 | 2020年12月18日 |
ガンマ | P.1 | ブラジル、 2020年11月 | 2021年1月11日 |
デルタ | B.1.617.2 | インド、 2020年10月 | VOI:2021年4月4日 VOC:2021年5月11日 |
オミクロン | B.1.1.529 | 複数の国、 2021年11月 | VUM:2021年11月24日VOC:2021年11月26日 |
※2021/11/29 現在
定義(WHO)
- 伝達性の増加、またはCOVID-19の疫学における有害な変化
- 毒性の増加または疾患の臨床症状の変化
- 公衆衛生・社会的措置、または利用可能な診断法、ワクチン、治療法の効果の低下
VOI
主に感染性や重篤度・ワクチン効果などに影響を与える可能性が示唆される株。
WHOラベル | パンゴ系統 | 最も早いサンプル | 指定日 |
ラムダ | C.37 | ペルー、2020年12月 | 2021年6月14日 |
ミュー | B.1.621 | コロンビア、2021年1月 | 2021年8月30日 |
※2021/11/29 現在
定義(WHO)
伝達性、疾患の重症度、免疫逃避、診断・治療逃避などのウイルスの特性に影響を与えると予測される、あるいは既知の遺伝子変化を有するもの。
複数の国で重大な地域感染や複数のCOVID-19クラスターを引き起こし、相対的な有病率が増加し、時間の経過とともに患者数が増加していること、あるいは世界の公衆衛生に対する新たなリスクを示唆するその他の明らかな疫学的影響が確認されていること。
変異株の発見年月
PANGO系統 (WHOラベル) | 最初の検出 |
B.1.1.7系統の変異株 (アルファ株) | 2020年9月 英国 |
B.1.351系統の変異株 (ベータ株) | 2020年5月 南アフリカ |
P.3系統の変異株 (シータ株) | 2021年1月 フィリピン |
B.1.617系統の変異株 (デルタ株等) | 2020年10月 インド |
出典:厚生労働省 資料「新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応」
変異株の感染性(従来株比)
PANGO系統 (WHOラベル) | 最初の検出 |
B.1.1.7系統の変異株 (アルファ株) | 1.32倍と推定※ (5~7割程度高い可能性) |
B.1.351系統の変異株 (ベータ株) | 5割程度高い可能性 |
P.3系統の変異株 (シータ株) | 高い可能性 |
B.1.617系統の変異株 (デルタ株等) | 高い可能性 |
出典:厚生労働省 資料「新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応」
ギリシア文字は24文字
冒頭で「デルタ株」という話をしましたが、8月6日には国内で初の「ラムダ株」発見の報がありました。WHOが「注目、懸念」する11番目の変異株といったところでしょうか。
大文字 | 小文字 | 日本での読み | 新型コロナ変異株(PANGO系統) |
Α | α | アルファ | イギリス由来の変異株(B.1.1.7) |
Β | β | ベータ | 南アフリカ由来の変異株(B.1.351) |
Γ | γ | ガンマ | ブラジル由来の変異株(P.1) |
Δ | δ | デルタ | インド由来の変異株(B.1.617.2) |
Ε | ε | イプシロン | アメリカ合衆国由来の変異株(B.1.427/B.1.429) |
Ζ | ζ | ゼータ(ツェータ) | ブラジル由来の変異株(P.2) |
Η | η | イータ | 複数国由来の変異株(B.1.525) |
Θ | θ | シータ | フィリピン由来の変異株(P.3) |
Ι | ι | イオタ | アメリカ合衆国由来の変異株(B.1.526) |
Κ | κ | カッパ | インド由来の変異株(B.1.617.1) |
Λ | λ | ラムダ | ペルー由来の変異株(C.37)→ ラムダ株(6月14日追加) ※VOI:2021年4月4日 VOC:2021年5月11日 |
Μ | μ | ミュー | コロンビア (B.1.621)2021年8月30日 VOI追加 |
Ν | ν | ニュー | |
Ξ | ξ | グザイ(クサイ) | |
Ο | ο | オミクロン | 複数の国(B.1.1.529)、2021年11月26日 VOI追加 |
Π | π | パイ | |
Ρ | ρ | ロー | |
Σ | σ | シグマ | |
Τ | τ | タウ | |
Υ | υ | ウプシロン | |
Φ | φ | ファイ | |
χ | χ | カイ | |
Ψ | ψ | プサイ | |
Ω | ω | オメガ |
ギリシア文字だけでは絶対的に足りない
VOC、VOIに指定された時点でギリシャ名が付きますが、もととなるPANGO系統では2021年9月現在、1340種類。その全てが「VOC」「VOI」となるわけではありませんが、さすがに足りないでしょう。
PANGO系統リスト
身近なギリシア文字
現在でも数学や物理学、天文学で使われるギリシア文字。
数学好きな方であれば「リーマン予想とゼータ関数」、天文であれば「ガンマ線バースト」、ゲームF.F「オメガ」、キャラクターなど日常でもギリシア文字に触れる機会は多いでしょう。
ラムダ株
2021年6月14日、C.37系統の変異株がWHOによってVOIに位置付けられ「ラムダ」と呼ばれることに。ペルーで2020年8月に初めて報告された変異株。
感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について (第10報)国立感染症研究所
ミュー株
2021年8月30日にWHOが「VOI(懸念すべき変異株)」に追加し、ミュー株となりました。
もともとは2020年1月にコロンビアで初めて文書化(確認)されたもので、Pango系統は B.1.621。
ギリシア文字は24番目の「オメガ」までしかありませんがコロナはどこまで変異していくのでしょう。
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