時を超えて結ばれた奇縁！姫路城主の書「七種山」が名刹・金剛城寺へ還る／福崎町

兵庫県神崎郡福崎町田口に位置する「七種山 金剛城寺」（兵庫県神崎郡福崎町田口236）は、推古天皇の時代に聖徳太子がこの地を霊厳として、恵灌法師（えかんほうし）に建立させたのが始まりとされる、歴史深い高野山真言宗の名刹です 。

七種山 金剛城寺

このたび、姫路城主の書いた金剛城寺の山号である「七種山」の書が、長い年月を経て、再び寺へ還るという感動的な出来事がありました。

この書を奉納したのは、町内在住の中塚廣重さんです。

手前：中塚廣重さん／奥：福崎町 尾﨑町長

姫路藩の名君、酒井忠道公による書

酒井忠道公による書

中塚さんが約30年前に古美術商から紹介を受け、縁あって入手したこの書は 、姫路藩第三代藩主であり、名君として知られる酒井忠道（さかいただひろ）（寛政二年〜文化十一年）が書いたものです 。

藩政改革の名君 酒井忠道 公

忠道公は、当時の姫路藩の財政立て直しと、藩士・領民の教育を積極的に行った人物で文芸にも優れた名君として知られます。

彼の時代に、家老の河合道臣（晩年の号は寸翁（すんのう））を責任者として行われた藩政改革の足跡は、福崎町にも数多く残されています。

酒井忠道は、天明の大飢饉で多くの餓死者が出た経験から、姫路藩からは餓死者を出さないという思いで、飢饉の備えとして食料保管の制度を作りました。

姫路藩が各所に設置した非常用食糧備蓄倉庫「固寧倉」は福崎町福田地区に今も町の文化財として残っています 。

固寧倉

また姫路藩にとって悩みでもあった、水の無い高台高地であった西光寺野（さいこうじの）二百町は、親交のあった島根松江藩主・松平治郷（不昧）から進言され、松江藩で成功した朝鮮人参の栽培に着手、この人参会所跡の碑が、福崎町西光寺野長池の南に残っています 。

福崎町に残るこれらの史跡。

酒井忠道公が抱いた「領民に餓死者を出させない」「教育によって藩を豊かにする」という強い思いと、それを実行した河合道臣の功績は現代にも息づいています。

福崎町（辻川山展望台から）

30年の想いと不思議な縁が結んだ寄進

中塚さんは、この書が金剛城寺の山号であることを調べた結果、酒井忠道の印が押されていることに驚き 、数十年間この「七種山」の書を金剛城寺に寄付したいと願っていました 。

書は兵庫歴史博物館に寄託されていましたが、金剛城寺の前住職に師事するなど縁が深かった中塚さん。

「もとあったであろう金剛城寺に返還したい」という積年の想いを成就させるため、寄託を解除、しかし、高齢となり機が掴めずにいたところ 、金剛城寺と縁も深い福崎町尾﨑町長と縁があったのだとか 。

中塚さんはこの縁に「物との巡り合わせ、人との出会い、不思議なもの」としみじみ語り 、町長に仲立ちを依頼 。

長年の願いを成就し、晴れ晴れとした表情を見せました 。

酒井忠道の時代、財政窮乏の姫路藩へ当時の金剛城寺から協力が行われたことへの礼として、この書が贈られた可能性も考えられると、中塚さん。

この書は扁額（へんがく）の素地として金剛城寺へ贈られたものではないか、とも推察しています。

 受け継がれる歴史と文化

今回の寄進を受け、現・住職の寺河俊紀さんは「当寺院は姫路城主と縁も深い、こういった形でまた寺に戻ってきて感慨深い。縁起を調べた上で姫路城主の書として山号の扁額を掲げ、多くの方に見てもらえれば」と話しました。

時を超え、人と人とを結びつけた「七種山」の書。

金剛城寺において、その歴史的価値とともに大切に受け継がれていくことでしょう。